SPECIAL

未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第2回

宇宙往還を当たり前の「インフラ」にしたい
株式会社SPACE WALKER 眞鍋 顕秀

――  SPACE WALKERは有翼の宇宙往還機の研究開発に取り組み、将来的に有人宇宙飛行を目指すベンチャー企業だそうですね。公認会計士でもあるCEOの眞鍋さんご自身は、宇宙ビジネスへの新規参入組と聞きました。どんな出会いがきっかけで創業に関わったのでしょうか?

眞鍋 SPACE WALKERは、米本・大山・眞鍋・保田の4人がCo-Founder(共同創業者)として立ち上げた会社です。米本以外の3人は、元々遊び仲間でもありましたが、私が最初に関わったのは、ある日行きつけのBarでお酒を飲んでいたときに、突然大山から連絡があり「ロケットに興味はあるか?今から話をしにいって良いか?」と聞かれたことがきっかけでした。
聞けば、「九州の大学でロケット開発をしている教授(これが米本でした)がいる。この前、会って話をしてきたら、ロケットを打ち上げるのに50億円集めたいという相談を受けた」とのことでした。

眞鍋氏

―― 50億ですか! 眞鍋さんはスタートアップに関わるお仕事を?

眞鍋 会計士としての駆け出しの頃は、大手監査法人でIPO(新規株式公開)の専門部隊に所属していました。その時の経験から考えれば、この日本においてベンチャーという視点でいきなり数十億円の調達を行なうことは、直感的にはほとんど不可能なことだと思いました。しかし、民間企業が本当にロケットを飛ばすことが出来るのであれば、これは世界の未来を大きく変える可能性を秘めた夢のある事業になるとも感じました。 そこで、実現の可能性が少しでもあるのかどうか、自分の目で見極める必要があると考えた私は、すぐに大山と共に実験機があるという九州工業大学に足を運ぶことにしました。

九州工業大学で初めて米本に出会い、現役の実験機を見た私は、「しっかりチームを作り、ビジネスの座組みを組めば、ありえない話ではない」と感じました。 その実験機には、すでにJAXA・IHI・川崎重工業・東レカーボンマジック・安川電機など名だたるエンジニアリング企業等が関与しており、何よりも米本自身が、実現させたいという強い情熱と、実現に向けたプランを持っていました。私たちの素人質問にも丁寧に付き合ってくれた米本の話を聞くうちに、宇宙を当たり前に行き来する未来を実現したいという思いは、いつしか自分ごととして考えるようになっていきました。

その頃の私は、独立して会計事務所を立ち上げてからちょうど5年がたつ頃でした。会計事務所を経営する公認会計士は世の中にたくさんいますが、ロケット開発会社を経営している公認会計士など聞いたことがありません。この思いを実現する事は、自分の人生をかけるだけの価値があると考え、2年かけて会計事務所を徐々に縮小し、ロケットにフルコミットで注力できる環境を整えてきました。

―― 創設メンバーには宇宙業界を長年リードしてきた重鎮たちが名前を連ねています。

眞鍋 スタートアップで最も大事にすべき事は、チームの構築だと言っても過言ではありません。夢を語ることは誰にでも出来ますが、それを実現できるだけのチームがなければ夢は夢で終わってしまいます。米本との出会いから会社設立までの約1年ほどは、このチーム作りのために動きました。 米本は川崎重工業在籍時に、ISASやNASDAの有翼宇宙往還機の研究開発に関わっていました。JAMSS元社長の留目会長は「はやぶさ」開発に関わった衛星のスペシャリスト、日産自動車の時代から固体ロケットに関わってきた浅井相談役、三菱重工出身の淺田取締役はH2ロケットの開発に大きく関わったエンジニアです。彼ら宇宙業界で豊富な経験や人脈を持つベテランたちのチームへの参加は、SPACE WALKER創業期においては無くてはならない存在です。現役時代は異なる企業に所属し、ある意味ライバル同士だった面々が、今だからこそしがらみのない立場でチームを組むことができました。

またITの世界ではあり得ないことですが、宇宙分野では昔の技術が今でも通用します。ロシアのロケット「ソユーズ」も何十年も前の枯れた技術と呼ばれる技術で作られているほどです。私たちが活用しようとしているのは、「HIMES(ハイムス)」「HOPE」「HOPE-X」といった30〜40年前の日本が国家プロジェクトとして取り組み、獲得した技術・ノウハウです。 使われないまま棚にしまい込まれていた過去の遺産は、普通のベンチャー企業ならば手が出ない代物ですが、当時それに携わっていた米本や淺田らがチームとして動くことで、過去の遺産を現代に呼び戻すことが出来たのだと思います。今ならまだ彼らが現役のエンジニアとして関わることができる。そして、次世代の若いエンジニア達に技術・ノウハウを引き継ぐことができる最後のチャンスだと思います。 日本が長年蓄積してきた技術・ノウハウの継承は、私たちSPACE WALKERが今だからこそやらなくてはいけない理由のひとつであり、社会的な意義も大きいと考えています。

―― いっぽうで、依然として宇宙往還は高いハードルのように思えます。

眞鍋 しっかりとしたマーケットがない中で、世界各国が官主導で行なってきたロケット開発ですが、日本独自の宇宙往還機「HOPE-X」の開発プロジェクトが凍結されたことも、当時としてはやむを得ない判断だったのだと思います。しかしここ数年で宇宙産業を取りまく状況は一変しています。スペースシャトルの退役で一度は冷え込んだ往還技術に対する見方も、ファルコン9(SpaceX社のロケット)の一段目回収の実現によりガラッと変わりました。30年~40年前にはなかった地上の通信環境の激変により、衛星打上需要も以前とは比較にならないほど高まっており、ロケット打上の事業化の道筋も見えてきています。

ベンチャーという視点でみると、日本で実現させるのは難しいのではないか?というお言葉はよくいただきます。しかし私たちの事業は、「宇宙と地球を結ぶインフラ事業である」という視点で見ていただきたい。日本は自動車、船、新幹線、最近では飛行機もつくってしまう国です。日本はインフラ事業に強いはずなんです。この日本で実現できないはずがありません。

眞鍋氏

眞鍋 私たちが目指しているのは「宇宙往還を当たり前にする」ということです。いったんの最終目標は2027年に有人宇宙旅行を実現することですが、いくつか超えていかなければならないハードルはあります。機体はもちろん、スペースポートをはじめとする地上インフラの整備は欠かせませんし、日本ではまだ人が宇宙へ行って帰ってくるための法律の整理もしっかりと出来ていません。一足飛びに人を飛ばすところまで行けませんので、まずは当たり前に無人機で宇宙往還ができるようにし、実績を積むことが重要となります。

1stステップは、2021〜22年にかけて無重量実験に利用できる無人の有翼サブオービタルスペースプレーンを実現します。5~6分の無重量時間を提供できますが、私たちの機体は行くだけでなく、帰ってくることが前提となりますので、使い捨てロケットでは出来ない高価な機材を搭載した実験も可能ですし、実験データを受取るだけでなく、モノそのものが回収可能となります。使い捨てロケットが主流の現在は、この領域のマーケットがまだまだ確立されていません。「新しいマーケットを作り、そこでトップを獲ること」が、ベンチャー企業の成功の鉄則です。トップを走れば、宇宙往還だけでなく周辺の事業展開にもチャンスが広がります。私達はそれが可能な位置にいます。

2ndステップでは、2023~2024年にかけて小型衛星投入が可能となる機体開発を考えています。これは1stステップよりも一回り大きな機体と使い捨てランチャーを開発することになります。150kgの荷物をSSO(太陽同期軌道)500km~700kmの軌道に投入可能なスペックを想定しています。この小型衛星の投入に関しては、大きなマーケットが見えているのは確かですが、実は世界中でこの市場をターゲットにした小型ロケットの会社が構想段階も含めて100社以上あると言われています。レッドオーシャンのマーケットで生き残るためには、高品質・低価格でサービスを提供することが勝負の分かれ目となります。

また、これらの開発と並行して、各地方自治体とスペースポート構想について話をしていかなければなりませんし、法律の整理についても進めていくために昨年11月から有識者を集めて研究会を立ち上げました。この研究会には官公庁にもオブザーバーとして参加いただいています。

―― そのために「50億」の資金調達が必要だと?

眞鍋 資金調達については、当初の50億からは変わってきています。最初の無重量実験用の無人有翼サブオービタルプレーンの開発で想定しているのは運転資金含めて100億円です。現在はエンジェル投資家から数億円規模の調達を完了していますが、次のステップでは実験機の開発および商用機の基本設計のために20億円、さらにシリーズAでは商用機の詳細設計・維持設計のために80億円の資金調達をしていかなくてはいけません。

―― 将来は飛行機のように宇宙往還機を飛ばしたい……。

眞鍋 無人のうちは、垂直離陸・水平着陸で考えていますが、将来の有人宇宙旅行が出来る機体は、飛行機のような水平離着陸を想定しています。

―― いずれにせよ、ベテランの宇宙エンジニアたちと若き起業家のタッグ、何やら映画のはじまりのシーンのようでワクワクします。

眞鍋 昨年8月の記者会見以後、大学生や20~30代の若手エンジニアからも多くお問い合わせをいただいております。新規ビジネスの創出はもちろんですが、技術継承という意味でも、宇宙ベンチャーが盛り上がっている今は絶好の、そして最後のチャンスでもあると思っています。

ライト兄弟の時代、飛行機がまだ世の中で当たり前になっていなかった時代があります。 今はまだ、宇宙往還が当たり前になっていませんが、当たり前になる日は必ず来ます。 「宇宙がみんなのものになる。」その日も遠い未来ではありません。

インタビュアー:科学技術ライター 喜多 充成

PROFILE
プロフィール

株式会社 SPACE WALKER
代表取締役CEO
眞鍋顕秀
(まなべ・あきひで)

昭和55年生まれ、38歳。北海道釧路市出身。
慶應義塾大学経済学部経済学科卒業後、2008年公認会計士試験に合格。その後、監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)のトータルサービス部門で法定監査・任意監査・IPO・M&A支援等に従事。2012年に独立し、まほろ綜合会計事務所を開設。代表パートナーに就任。2014年コンサルティング会社として株式会社Remoloaを設立し、代表取締役に就任(現任)。2017年12月に株式会社SPACE WALKERを設立し代表取締役COOに就任。翌2018年12月に同社CEOに就任(現任)。

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