SPECIAL

未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第3回

「宇宙ビジネス創出推進自治体」の取り組み紹介(前編)
茨城県/福井県

2018年7月に内閣府と経済産業省が公募した「宇宙ビジネス創出推進自治体」において選定された4道県の取り組みを紹介します。
この取り組みは、衛星データ等を活用した宇宙ビジネスの創出を主体的・積極的に推進する地方自治体を選定し、国(内閣府・経済産業省)と当該自治体との共催により、地域における衛星データの利活用拡大や、衛星データを活用したビジネス創出に資する取り組みを実施するものです。

<茨城県>
「地の利」を活かし、宇宙ビジネス創出に挑む

宇宙はビジネスのフロンティアであり、国も民需による宇宙産業市場の拡大や衛星データ等の活用、宇宙ベンチャー育成などの取り組みを進めている。このような中、茨城県では宇宙ビジネスの成長可能性を検討し、平成30年9月に補正予算を組み、「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」をスタートさせた。宇宙ベンチャーの創出・誘致と県内企業の宇宙への参入を目指したスピード感のある動きといえよう。


*「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」発表会の模様(平成30年8月27日)

また県では、平成30年10月に「宇宙ビジネス創造プラットフォーム」を、つくば研究支援センターに設置し、宇宙ビジネスの創出に多くの実績を有する(一財)宇宙システム開発利用推進機構(JSS)に運営を委託した。ここでは、宇宙ビジネスコーディネーターが宇宙ビジネスに関する各種相談をはじめ、企業の技術シーズの目利きや掘り起こし、国の研究機関等が保有する試験設備利用などに関するワンストップ案内を行っている。また、研究開発の支援のために、茨城県産業技術イノベーションセンターの機能強化を行っており、小型衛星等の開発に使える試験設備も導入する。さらに、リスクが高いとされる宇宙ビジネスに挑戦する企業等への財政支援も積極的に行っている。

平成30年12月18日には「いばらき宇宙ビジネスサミット2018」を開催し、大井川和彦・茨城県知事と宇宙ベンチャーや投資家等によるパネルディスカッション、宇宙ビジネス創出のための国研&ベンチャーによるプレゼンや展示、衛星データに関する講習会等が行われた。

茨城県は宇宙に関して強みがある。筑波研究学園都市にはJAXAの宇宙利用の拠点である筑波宇宙センターを始め、産業技術総合研究所など多くの国の研究機関や筑波大学、約150の民間研究所がある。また東海村にはJ-PARC(大強度陽子加速器施設)があり、産業利用を目的として、施設内に物質や材料の構造解析が可能な2本のビームラインを設置している。さらに、つくば研究支援センターやいばらき成長産業振興協議会などの充実したベンチャー支援や企業連携の組織があるほか、都心からつくばまではつくばエクスプレスで45分で結ばれ、茨城空港や成田空港から国内各地・海外へのアクセスが容易である。

これらは他県にはない強みであるが、意外なことに、これまで茨城県では宇宙ビジネス創出にこれらの強みが生かしきれていなかった面があった。県内の宇宙産業はJAXAの事業を行う企業が多く、新たな企業が宇宙に参入しづらかったという事情がある。また、都心に近いという地の利であっても、都内の人からは「東京から離れる」というイメージが強い。都内には宇宙ベンチャーがどんどんできているが、茨城県は後発。起業する側にあえて茨城に行くというメリットが見いだせていなかったからだ。新たな宇宙ビジネス創出への県の取り組みは、こうした状況を打破するために始まったといえる部分もある。 今後は茨城県ならではの強みを生かし、内閣府や経済産業省、さらにはJAXAの制度も活用しながら、ベンチャー創出・誘致や県内既存企業の宇宙参入を強力に進めていく方針である。県の補助金を使ってすでに1社が本社を、もう1社が支社を県内に設置している。最近は学生ベンチャーも多いので、大学にも積極的にアプローチしていくという。

宇宙ビジネスの分野に関しては、今はテーマをしぼらず、広く可能性を探っている。「茨城県は農地面積が広く、山林や海もあり、衛星データ利用の可能性はいろいろある。また、衛星データ利用だけでなく、ものづくりやIT、AI、IoT関連の企業なども立地している。目的は宇宙産業の活性化。宇宙だけでは解決しない、既存の産業分野とのコラボレーションも大事だ」と県の担当者は語った。

有望な事案をみつけ、宇宙ビジネス創造プラットフォームを活用し、人的・技術的・財政的支援により事業化を促進していく。「2019年度はステップアップの時期。新年度からさらなる厚みをもたせて事業を展開できればと考えている」。
これから宇宙ビジネスを始めようとする人たちにとって、4月以降の茨城県の動きに注目だ。

【プロジェクトに関する問合せ先】
茨城県 産業戦略部 技術振興局
科学技術振興課 国際戦略総合特区推進室
TEL : 029-301-2515(直通)  FAX : 029-301-2498 
Eーmail : kokusaisenryaku@pref.ibaraki.lg.jp

<福井県>
県民衛星で宇宙産業に挑戦する!

福井県では平成27年4月に改訂された福井経済新戦略で「宇宙産業への参入」がうたわれ、「県民衛星プロジェクト」が進んでいる。人口減少や高齢化等により、県内の経済活動は縮小の傾向にある。県民の豊かな生活の維持や県内産業の活力向上には技術革新や新しいビジネスモデルの創出が求められており、県は宇宙をそのための有望な分野と位置づけている。

その背景には民間による宇宙利用の拡大、小型人工衛星分野へのベンチャーの進出、さらには衛星データの利用が容易かつ安価になったという最近の世の中の動きがある。県の担当者によると、「宇宙は面白い。福井でも何かできるのではないか」と考えるようになったのだという。平成27年9月に「ふくい宇宙産業創出研究会」を立ち上げ、セミナーや東京大学の中須賀教授を招いた勉強会などを行った。現在、研究会には53の企業が参加している。昨年2月からは、当研究会の参加企業と県、東京大学が共同で「超小型人工衛星の製造効率化に向けた共同研究」に取り組んでいる。

平成28年8月には「福井県民衛星技術研究組合」が設立された。この組合は製造系企業7社、システム系企業4社などで構成されている。県も研究組合に参加し、活動をサポート。また大学やJAXAが顧問をつとめている。研究組合は「衛星製造・開発グループ」と「衛星データ利活用グループ」からなっている。

衛星製造・開発グループの目的は、県民衛星の製造を通じた超小型人工衛星の製造に係る生産性向上、省力化、短納期化に関する研究開発である。県民衛星は平成32年度上半期の打ち上げを目指している。平成28年度に県民衛星の基本設計をおこない、仕様書を作成した。現在技術研究を進めており、平成31年度に製造・環境試験を行う予定である。

県民衛星は光学衛星で、研究組合に参加しているアクセルスペースの衛星をベースに設計されている。分解能は2.5mである。同一場所の観測頻度は1週間に1回であるが、アクセルスペースが別に打ち上げる衛星とのコンステレーション運用によって、観測頻度を向上させる計画である。

衛星データ利活用グループの目的は、システム系企業が開発した衛星データ利活用ソフトウェアを県がモデルユーザーとなり、ビジネスモデル創出につなげることである。平成28年度に利活用分野の検討を行い、29年度にはソフトウェア開発にとりかかった。現在は試作・評価を行う段階で、平成31年度にソフトウェアの改良を行い、32年度には運用を開始したい考えである。

県は、県民衛星のデータ利活用により、先進的な行政管理の実現を目指している。まずは防災や環境保全で役立つソフトウェア開発を目指しており、河川の中州の状況把握、森林の伐採状況や土砂崩れの監視などでの利活用を検討している。過去の衛星データとの比較で災害につながる兆候が分かれば、早期かつピンポイントにパトロールを強化するなどの対策が可能となり、県民へのサービス向上に大きな意味をもつことになる。将来的には、画像解析での施肥や刈り取り時期の把握など農作業の効率化や品質管理などが考えられている。

研究組合は県民衛星打ち上げの先に、他の衛星の製造受注や利用ソフトウェアの製品化を目標に据えている。また、県も超小型人工衛星製造拠点化への取り組みを進めており、福井県工業技術センターを中心に、振動試験や熱真空試験等の試験が行える環境を整えている。

2019年6月には、宇宙分野で世界最大規模の国際シンポジウムである第32回宇宙技術および科学の国際シンポジウム(ISTS)福井大会が開催されることになっており、県ではこうした機会ともリンクし、宇宙産業参入への機運醸成をはかっていくとしている。

【プロジェクトに関する問合せ先】
福井県 産業労働部 新産業創出課
電話番号:0776-20-0537 | ファックス:0776-20-0678
メール:sinsangyo@pref.fukui.lg.jp
住所:福井市大手3丁目17-1
受付時間 月曜日から金曜日 8時30分から17時15分(土曜・日曜・祝日・年末年始を除く)

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